愛猫の加齢をめぐっては、飼い主側の心理的な受容の遅れが適切な治療介入を阻むケースが少なくありません。SNSやコミュニティ相談窓口に寄せられる声を見ても、「まだ毛並みも綺麗だし、8歳でシニア扱いするのは抵抗がある」「病気になってから病院へ行けば十分だと思っていた」という告白が後を絶ちません。
臨床現場の獣医師が口を揃えるのは、「猫は不調を極限まで隠す動物である」という生態的事実です。単独行動で狩りをして生きてきた猫科の祖先にとって、弱みを見せることは外敵に捕食されるリスクに直結していました。そのため、腎臓機能の半分が失われていても、飼い主の前では普段通りに毛づくろいをし、食事を食べ続けます。
ペットを我が子同然に慈しむあまり、「うちの子に限ってまだ衰えるはずがない」と思い込む心理傾向(擬人化バイアス)は、結果として異変の発見を遅らせます。8歳を迎えた段階で「人間のアラフィフである」という冷徹な事実を客観視できるかどうかが、その後の生存期間の質を決定づけます。