野生下における熊の生涯は、我々が抱く「百獣の王」のようなイメージとは大きく異なる。生態学の最新フィールド調査によれば、野生のヒグマやツキノワグマの平均的な寿命はおよそ15年から25年程度。だが、この数字はあくまで「成獣まで生き残れた個体」を前提とした統計だ。
日本クマネットワークの研究者たちが指摘するように、生後1年未満の子熊の死亡率は50%を超える地域も珍しくない。春先の急激な寒の戻り、エサ不足、さらにはオスの成獣による子殺し(インファンティサイド)など、幼獣を取り巻く環境は極めて危険に満ちている。過酷な生存競争をくぐり抜け、20歳を超えてなお山林を闊歩できる個体は、選ばれた一握りの強者にすぎない。
環境省のモニタリングデータでも、捕獲された個体の歯の年輪(セメント質年輪)解析から、野生で30歳近くまで生き延びた例は極めて稀であることが判明している。野生の森で生きるということは、毎日が死線との駆け引きなのだ。