古畑任三郎での軽妙な演技の礎となったのが、1980年代半ばに起きた「田村正和のコメディ路線への大転換」です。それまでの田村さんは、父である阪東妻三郎の血を受け継ぐ時代劇の名手であり、陰影のあるニヒルな美男子役が定位置でした。
そのイメージを鮮やかに覆したのが、TBSの敏腕プロデューサー・八木康夫氏が手掛けた『うちの子にかぎって…』です。小学校の担任教師がいたずら盛りの児童たちに翻弄され、情けなく狼狽する姿を田村さんが演じたことは、当時の視聴者と批評家に大きな衝撃を与えました。
続いて制作された『パパはニュースキャスター』では、酒に酔って記憶をなくし、別々の母親から生まれた3人の娘(全員「愛美」)が突然家に押し寄せてくる独身貴族のキャスター・鏡竜太郎をコミカルに好演。自らの洗練されたパブリックイメージを逆手に取るセルフパロディ的な演出を完璧にこなしたことで、従来のファン層を超えた幅広い国民的認知を獲得しました。