長年囁かれている「炭酸水を毎日飲むと骨が溶ける」という噂について、骨代謝の観点から明確に否定されています。かつて「炭酸飲料を飲むと骨密度が下がる」と言われた背景には、リン酸を多量に含む特定のコーラ系飲料の過剰摂取や、牛乳の摂取不足によるカルシウム不足が統計上の交絡因子となっていたためです。無糖の炭酸水が体内の骨を溶かすという機序は生化学的に存在しません。
一方で、「歯が溶ける」という懸念には歯科医学的な事実が含まれています。歯の最表層を覆うエナメル質は、口内環境が「pH5.5以下(臨界pH)」になるとリン酸カルシウムが溶け出す「脱灰(酸蝕症)」が始まるとされています。一般的な無糖炭酸水はpH4.5〜5.0前後であるため、数値上は臨界pHを下回っています。
しかし、これが直ちに「炭酸水を飲むと歯がボロボロになる」ことを意味するわけではありません。人間の口腔内には唾液という強力な緩衝システムが存在し、酸を速やかに中和してミネラルを再沈着させる再石灰化機能が働いています。通常の飲用ペースであれば唾液の働きによって歯へのダメージは極めて限定的ですが、デスクワーク中に数時間にわたって少しずつ口に含み続ける「ダラダラ飲み」を続けると、唾液の中和作用が追いつかず、酸蝕症のリスクが高まる点には留意すべきです。