このユニークな挑戦を率いるのは、株式会社森林ノ牧場の代表である山川将弘氏だ。彼が掲げるのは、牛を牛舎に閉じ込めて輸入飼料で育てる集約型酪農ではなく、牛を森に放ち、森の草木を食べさせながら山林を管理する「山地(やまち)放牧酪農」である。
もともと耕作放棄地や間伐の遅れた森林は、人の手が入らなければ荒れ果ててしまう。そこに放牧された牛たちは、驚くべきことに邪魔な下草や低木をきれいに食べ尽くし、森の奥まで日光を届ける役割を果たす。牛の蹄(ひづめ)が適度に土を耕し、自然な排泄物が豊かな土壌を育む。山川氏が目指したのは、森林保全と酪農ビジネスが美しく噛み合う持続可能なエコシステムそのものだった。
那須高原の豊かな自然環境をただ消費するのではなく、酪農を通じて森の生命力を再び巡らせる。その揺るぎない哲学が、全国の生産者やシェフから熱い注目を集める理由となっている。