社会学者のジョン・ギャグノンとウィリアム・サイモンが提唱した「性的スクリプト理論(Sexual Script Theory)」において、人々の性的行動は社会的に共有された台本(スクリプト)に強く影響を受けると論じられています。昭和の「恋のABC」は、まさに当時の日本社会が規定した強力な恋愛スクリプトでした。
しかし、このスクリプトには「一度A(キス)を許せば次はB、その次はCへとエスカレーションするのが当然である」という不可逆的な圧力を生み出す構造的リスクが内包されていました。「ここまで許したのだから最後まで拒否できない」という心理的誘導は、個人の意思決定を歪める要因になり得たのです。
健全なパートナーシップを築く上で求められるのは、画一的なアルファベットの順序ではなく、心理的バウンダリー(自他の境界線)の尊重とアクティブ・コンセント(明確かつ自発的な同意)です。
「手をつなぐことには合意したが、キスはまだしたくない」「キスは心地よいが、身体に触れられるのは拒否したい」という意思表示はいつでも有効であり、前段階を受け入れたからといって次の段階が無条件に許可されるわけではありません。過去のステップ論を客観的な歴史として理解した上で、目の前のパートナーと対話を重ね、都度お互いの意思を確認し合う姿勢こそが、トラブルを防ぎ信頼関係を深めるための絶対条件となります。