「走れなくなった競走馬は、その日のうちにトラックで屠畜場へ運ばれて馬刺しになる」――ネット掲示板やSNSでまことしやかに語られるこの噂は、半分が真実で、半分は流通の実態を知らない誤認に基づいています。
結論から言えば、競走馬が引退後に食肉市場へ流通しているのは動かしがたい事実です。ただし、レースを走り終えたばかりのサラブレッドが、即座に精肉加工されるわけではありません。競走馬は極限まで体脂肪を削ぎ落としたアスリートであり、そのままでは肉が固く、食用としての商業価値が極めて低いからです。
競馬界で競技生活を終えた馬が食肉ルートに乗る場合、まずは家畜商を通じて全国に点在する競走馬肥育場へと買い取られます。特に熊本県や福島県などの主産地にある肥育施設において、高カロリーな穀物飼料を与えられながら6カ月から1年以上の期間をかけて体重を増やし、肉質を柔らかく仕上げる「肥育期間」を経ます。これが競走馬馬刺し流通の標準的な工程です。
競馬ファンの間で長年疑問視されてきたのが、JRA(日本中央競馬会)の登録抹消事由に見られる競走馬用途変更の真相です。公式発表資料において「乗馬」「地方競馬移籍」と記載されて抹消された後、間もなく所在が追えなくなるケースが過去に多発しました。乗馬施設へ引き取られたものの、気性が激しすぎて乗馬に適さないと判断された個体や、維持費を払い続けられなくなった受け入れ先から家畜商へ転売されるケースなど、複数のステップを経て食肉処理へ至る複雑な流通網が存在しています。