モモンガとムササビは、どちらも完全な夜行性の哺乳類です。日が完全に沈み、薄明が消え去ったころに樹洞の巣穴から顔を出し、活動を開始します。しかし、彼らが暮らしている「場所のスケール」には明確なニッチ(生態的地位)の棲み分けが見られます。
ニホンモモンガは、主として標高の高い山岳地帯、冷温帯のブナやミズナラなどの天然林や亜高山帯の針葉樹林に好んで生息します。体が小さいため寒さには敏感ですが、複数の個体が一つの樹洞に寄り添って集団で越冬する社会性を持っています。人里離れた原生的な自然環境を必要とするため、都市部や開発が進んだ平野部近郊で見かける機会は極めて稀です。
一方のムササビは、山奥だけでなく、人間活動の気配が残る里山や平野部の社寺林にも頻繁に出現します。スギやヒノキの巨木、エノキやケヤキの大木が生い茂る環境であれば、神社仏閣の境内や都市近郊の緑地公園の残存林でも十分に繁殖します。古い神社やお寺の屋根裏に巣を作り、夕暮れの鐘の音とともに飛び出す光景は、東京都の高尾山をはじめとする観察スポットで長年親しまれてきました。
また、夜の静けさの中で響く鳴き声の違いと真相も興味深い事実を教えてくれます。
森を歩いていて「グルルルル…」「クワッ、カッ」という、野太く絞り出すような重低音が響いたなら、それはムササビの縄張り主張や仲間同士の交信です。古くは平安時代から江戸時代にかけて、闇夜から突如響くこの怪音は「鵺(ぬえ)の鳴き声」や「妖怪の仕業」として恐れられてきました。巨体から発せられるその声は数百メートル先まで届くエネルギーを持っています。
それとは対照的に、モモンガの鳴き声は「チッチッチッ」「ジジジ…」という、まるで小鳥のさえずりやキリギリスなどの昆虫を思わせる極めて微細な高周波です。人間の耳では耳を澄まさなければ聞き落としてしまうほど小さく、鬱蒼とした奥山で仲間と静かに連絡を取り合うための慎ましい音色といえます。