認知症介護において深刻な悩みとなりやすい「徘徊」ですが、医学的には本人にとって必ず明確な目的や理由が存在する行動であることが分かっています。その引き金となっているのが、失見当識による強烈な焦燥感です。
例えば、時間の失見当識によって「今は昭和40年代で、これから子どもの幼稚園のお迎えに行かなければならない」と本人が確信している場合、周囲が「夜だから寝ましょう」と制止しても、本人にとっては「我が子が待っているのに閉じ込められている」という恐怖に映ります。また、自宅にいる実感が持てない場所の失見当識が生じると、「本当の自分の家に帰りたい」という切実な思いから外へ歩き出してしまいます。
本人は決して意味もなく歩き回っているのではなく、自分の認識している世界の中で辻褄を合わせ、懸命に責務を果たそうとしているのです。この心理構造を理解することが、介護者のストレス軽減と適切なケアの第一歩となります。