コンビニエンスストアの棚や駅前の看板で見かける「クリーミー」「濃厚まろやか」を謳う白濁スープ。これらは歴史的に「壱系」と「資本系」という2つの要素が交差して生まれたものです。
1992年に磯子で創業した「壱六家」を祖とする壱系は、吉村家とは直接の師弟関係を持たない独立独歩の系譜でした。骨を徹底的に炊き込んで乳化させた白濁スープに、箸休めのうずらの卵を乗せるスタイルが特徴です。ここで重要なのは、本物の壱系は厨房で骨を強火で炊き抜く本格派の店炊き職人店であるという点です。
この壱系のビジュアルと味付けに目をつけたのが、2010年代以降に台頭した飲食チェーン企業(資本系)でした。彼らは急速凍結技術や濃縮ポークエキスを活用し、工場で一括生産したスープを各店舗へ配送するセントラルキッチン方式を開発したのです。
店炊きスープと資本系の工場スープには、食品科学的な明確な違いが存在します。直系や本格店が寸胴で炊き出すスープは、生ガラから骨髄液やゼラチン質が熱水抽出される過程で、絶えず「酸化」と「メイラード反応」が同時進行しています。骨由来の微細な浮遊物が光を乱反射し、醤油と混ざり合うことで特有の赤みがかった褐色を帯び、力強いコクと野趣あふれる獣香が宿ります。
一方のセントラルキッチン製スープは、均一化された豚脂と乳化剤、調味液によって成分が完全に安定化されているため、スープが真っ白に乳化しています。焦げやブレのない安定した味わいを提供する反面、寸胴で骨を炊く瞬間のフレッシュなアミノ酸の立ち上がりや、ガラ由来の重層的な旨味の奥行きは削ぎ落とされます。どちらが良い悪いという議論を超え、両者が提供している体験は科学的にも全く別物なのです。