亀田姫月のキャリアを語る上で外せないのが、ボクシング界における異例の足跡です。もともとティーン向けファッション誌『エッジ・スタイル』などでモデルとして活動していた彼女が、本格的にボクシンググローブを握ったのは10代後半のことでした。「亀田家のDNA」を背負い、2018年4月にメキシコでプロデビューを飾ると、いきなり2回TKO勝利を収めます。
その後も海外のリングを主戦場に破竹の勢いで勝利を重ね、最終的なプロ公式戦績は5戦5勝5KO無敗(KO率100%)という驚異的なレコードを打ち立てました。男子顔負けの鋭い左ボディブローと果敢なインファイトは、まさに父・史郎の直接指導によって叩き込まれた「亀田スタイル」の真骨頂でした。
世界王座への挑戦が現実味を帯びていた時期に、なぜリングを去らねばならなかったのか。その引退理由には、世界的なパンデミックによる渡航制限が直撃したことが大きく関係しています。日本国内での女子ライセンス取得やマッチメイクのハードルが高かった当時、主戦場をメキシコに置いていた彼女は、1年以上の実戦ブランクを余儀なくされました。
格闘家にとって20歳前後の1年半という空白は極めて重く、過酷な減量とトレーニングを維持し続けるモチベーションの糸が途切れたことは想像に難くありません。さらに、長男・興毅がプロモーターへと転身し、一家の軸足が「自ら戦うこと」から「ボクシング界を支えるビジネス」へと移行していった時期とも重なります。兄たちの背中を追ってやりきったという達成感とともに、女性としてのセカンドキャリアを模索した結果の決断でした。