神田神保町や大阪の新世界などに今なお残る老舗喫茶店の現場を訪ねると、そこには大手チェーンにはない独特の熱気と秩序が存在しています。創業50年を超えるある純喫茶の店主は、法改正当時の苦渋の決断と現在の心境について次のように明かしています。
「2020年の法改正前後は、うちも禁煙にすべきか毎晩悩みました。しかし、何十年も通ってくれる常連さんが求めているのは、深煎りのネルドリップコーヒーと、それを飲みながらくゆらす1本のタバコでした。『吸えないなら別の店に行く』という常連さんの背中を押すことはできなかった。標識を出し、20歳未満のお客様をお断りする看板を掲げたときは胸が痛破れそうでしたが、今となっては遠方からも愛煙家が訪れてくれる大切な聖地になっています」
実際に店内に足を踏み入れると、低く流れるジャズの音色とともに、革張りのソファに深く腰掛けた客が静かに紫煙を吐き出しています。SNSや口コミサイトの投稿を分析すると、愛煙家側の感想には「この店だけは時間がゆっくり流れている」「肩身の狭い思いをせずに自分のペースを取り戻せる」といった精神的な安堵感を吐露する声が圧倒的です。
興味深いのは、ここ数年盛り上がりを見せている昭和レトロカルチャーに惹かれた20代の若年層の姿も散見される点です。入店時に年齢確認をクリアした若者たちが、クリームソーダやプリンアラモードの写真を撮りつつ、日常のデジタル過多な空間から離れた独特のノスタルジーを味わっています。