これから本作を手に取る読者にとって、最も混乱しやすいのが全8部に及ぶ構成と読む順番です。本作は時系列順に主人公・伊吹信介の成長を追っていく形式をとっているため、刊行順に読み進めるのが鉄則です。
物語の起点となる『筑豊篇』では、炭鉱の頭領であった父・伊吹重蔵の凄絶な死と、美しき継母・タエ、幼馴染の牧織江との濃密な人間関係が描かれます。やがて信介は筑豊の閉塞感を脱し、向学心と野心、そして己の存在意義を求めて東京へと旅立ちます。
各部の構成と物語の主軸は以下の順序で展開していきます。
- 第1部:筑豊篇 - 信介の誕生から少年期。父・重蔵の伝説と過酷な炭鉱社会の現実、性の目覚め。
- 第2部:江戸篇 - 上京して早稲田大学へ進学。貧困、ボクシング部での鍛錬、新宿カルチャーとの遭遇。
- 第3部:放浪篇 - 大学を離れ、旅芸人や日雇い労働者ら社会の周縁に生きる人々との交錯。
- 第4部:堕脱篇 - 挫折と退廃の日々。暴力団や地下社会の抗争に巻き込まれながら葛藤する青年期。
- 第5部:望郷篇 - 再び筑豊の地を見つめ直し、故郷の変容と己のルーツを再確認する精神的帰還。
- 第6部:再起篇 - 新たな生活基盤を築こうともがき、人間としての再出発を期する奮闘。
- 第7部:挑戦篇 - 自らの限界を試すべく、過酷なスポーツや未踏の事業へと果敢に飛び込む。
- 第8部:漂流篇 - 激動の時代背景のなか、北方の地へと流転しながら魂の救済を模索する最終章。
文芸編集の視点から推奨する読み方としては、まず金字塔とされる第1部『筑豊篇』と第2部『江戸篇』の2作品を連続して読むことです。この2部作だけで信介の精神的骨格は完成されており、読書体験としての密度は極めて高い満足度を得られます。