柳川のうなぎせいろ蒸しを語る上で、まず理解すべきは「うな重との圧倒的な製法の違い」です。一般的なうな重は、白米の上にタレをかけ、焼き上げた蒲焼を乗せる構造になっています。一方、柳川のせいろ蒸しは、秘伝のタレをあらかじめ均一にまぶしたご飯をせいろに敷き詰め、炭火で香ばしく焼き上げた蒲焼と鮮やかな錦糸卵を乗せた上で、「せいろごとじっくり二度蒸し」を行います。
この二度蒸しにより、蒲焼の余分な脂が適度に落ちて身は驚くほどふっくらと柔らかくなり、うなぎの芳醇な旨味と脂が下のタレご飯へと染み渡ります。杉や檜のせいろが余分な水分を吸いながら熱を閉じ込めるため、「最後の一口まで火傷しそうなほど熱々の状態が続く」という唯一無二の食体験が完成するのです。
発祥の歴史は江戸時代中期の天和元年(1681年)に遡ります。「元祖本吉屋」の初代が、「初代から受け継ぐ蒲焼の美味しさを、冬の厳しい寒さの中でも冷まさず、最後まで温かいままお客様に提供できないか」と試行錯誤した末に考案されたと伝えられています。もてなしの心から生まれたこの調理法は、やがて柳川一帯に広まり、筑後地方を代表するハレの日の贅沢料理として定着しました。
また、せいろ蒸しの象徴である「錦糸卵が敷き詰められている理由」には、視覚と味覚の両面で計算された必然性があります。鮮やかな黄色が漆塗りのせいろに映える美しさはもちろんのこと、濃厚で甘辛いタレの味を卵のまろやかさが絶妙に中和し、最後まで食べ飽きさせない緩衝材の役割を果たしています。