猫が獲物に気付かれずに背後へ忍び寄れる最大の理由は、極めて特殊な足の骨格と肉球の構造にあります。人間がかかとを地面につけて歩く「蹠行(しょこう)性」であるのに対し、猫は常につま先だけで接地して歩く「指行(しこう)性」の動物です。常にハイヒールを履いて走っているような骨格構造になっており、これがバネのような推進力と俊敏な方向転換を生み出します。
猫の前足を観察すると、地面に接地する主たる指が4本、少し高い位置の内側に「狼爪(ろうそう)」と呼ばれる親指に相当する指が1本あり、合計5本の指で構成されています。これに対して後ろ足の指は4本しかありません。この「前5本・後4本(合計18本)」という指の本数は、木登りや獲物の捕獲で器用さが求められる前肢と、地面を強く蹴り出して前進する推進力に特化した後肢という、役割分担の進化の結果です。なお、手首付近の少し離れた位置にある小さな肉球は「手根球(しゅこんきゅう)」と呼ばれ、高所から着地した際の強力なブレーキ兼衝撃吸収ストッパーとして機能しています。
また、足裏の肉球は弾力性に富む結合組織と脂肪組織が厚い皮膚で覆われた構造を持ち、着地時の衝撃を完璧に吸収する「天然のエアサスペンション」の役割を果たします。表面の角質層は柔軟でありながら頑丈で、歩行時の摩擦音を極限まで抑え込みます。猫の足裏には体中で唯一発達した汗腺(エクリン腺)が存在し、緊張時や体温調節時に汗をかくことで、急激なターンでも滑らないようグリップ力を高める役割も担っているのです。