情報空間に蔓延する誤解のなかで最も根深いのが、「唇に脂肪溶解注射(BNLSなど)を打てば薄くなる」という俗説です。
解剖学上、唇の主成分は粘膜、血管叢、そして口輪筋です。頬や顎下と異なり、皮下脂肪層はごくわずかしか存在しません。そのため、唇への脂肪溶解注射は医学的適応がほぼ認められておらず、大手学会でも推奨されていません。万一投与した場合、強い腫れや組織壊死を引き起こす恐れがあり、大半の良心的な医師は施術を断ります。「切らずに注射だけで唇を薄くできる」と謳うクリニックには細心の警戒が必要です。
もう一つの盲点は、厚い唇が必ずしも「美しさのマイナス要素」ではないという事実です。顔面形態学において、上唇と下唇の厚みの理想比率は「1:1.3〜1.5」とされています。近年では過度に薄い唇は老けた印象や冷淡な印象を与えかねないとして、むしろヒアルロン酸注入でボリュームを出すトレンドすら定着しています。薄くすることだけを追求した結果、顔全体の調和が崩れ、人中(鼻の下の溝)が間延びして見えるリスクを計算に入れておく必要があります。