草津温泉の源泉は、湯畑をはじめ万代鉱(ばんだいこう)、白旗(しらはた)など主要な源泉の温度がおよそ50℃から高いところでは95℃前後に達します。人間がそのまま浸かれば重度の火傷を負う熱湯です。しかし、一般的な温泉地のように「水道水を足して温度を下げる(加水)」という選択肢を、草津の先人たちは頑なに拒みました。
その最大の理由は、草津温泉が誇る圧倒的な「泉質主義」にあります。草津の湯はpH2.0前後の強酸性であり、極めて高い殺菌力と豊富な鉱物成分を含んでいます。もし適温まで下げるために大量の水を加えてしまえば、温泉成分が薄まり、古来より人々が縋ってきた湯治効果が著しく損なわれてしまいます。「源泉100%かけ流し」の純度を保ったまま、人間が入浴できる42℃〜48℃前後まで温度を下げる手段として編み出されたのが、空気に触れさせながら湯をかき混ぜる「湯もみ」でした。
湯もみには単なる温度調整を超えた複数の効能があります。板で激しく湯を波立たせることで外気を取り込み、蒸発潜熱によって効率的に湯温を下げると同時に、湯に含まれる硫化水素などの刺激臭や余分なガスを適度に放出させます。さらに、強い酸性泉特有のピリピリとした刺激を和らげ、湯の感触を肌になじみやすく「もみほぐす(まろやかにする)」という物理的・化学的変化をもたらすのです。