登録以降、和食ユネスコ登録の海外の反応は劇的な拡大を遂げました。農林水産省が公表した調査データによると、海外における日本食レストランの店舗数は、登録直前の2013年時点で約5万5,000店だったものが、2023年には約18万7,000店へ、そして現在では20万店の大台を超えて成長を続けています。
欧米やアジアの主要都市では「RAMEN」や「SUSHI」のみならず、素材の持ち味を活かした「Dashi(出汁)」や「Omakase(おまかせ割烹)」の哲学が定着しました。インバウンド(訪日外国人観光客)の調査を見ても、訪日動機の上位には常に「本場の日本食を味わうこと」が挙げられ、SNS上では「器の美しさに感動した」「胃もたれせず身体が軽くなる」といった称賛の声が溢れています。
ところが、発祥の地である日本国内の足元に目を向けると、全く逆の残酷な現実が浮かび上がります。ネットのコミュニティや知恵袋、SNSの投稿を検証すると、家庭料理の最前線にいる生活者たちの切実な本音が散見されます。
「昆布や鰹節から出汁を取るなんて平日は到底無理。市販の濃縮つゆや顆粒だしで精一杯」
「魚を焼くとグリルを洗うのが億劫だし、部屋に生臭さが残るから買わなくなった」
「子どもが煮物や酢の物を好まず、ハンバーグやパスタばかりリクエストされる」
共働き世帯の増加や単身世帯の急増による「タイパ(タイムパフォーマンス)」重視の生活様式、さらには個食化が進んだ結果、家庭内で「一汁三菜」を整えるハードルは年々高くなっています。総務省の家計調査でも、1世帯当たりの生鮮魚介や米への支出割合が長期低下傾向にあることは明白です。海外で崇められる一方で、当の母国では食卓から姿を消しつつあるという皮肉な乖離が起きています。