「五臓六腑」という言葉を耳にしても、具体的にどの部位を指すのかを即答できる人は専門家を除けば稀です。東洋医学において、「臓」は中身が詰まった実質臓器で気血を蓄える「陰」の役割を担い、「腑」は中身が空洞の管腔臓器で消化・吸収・排泄を担う「陽」の役割を受け持ちます。五つの臓と六つの腑、合わせて11の器官が存在します。
ここで特筆すべきは、現代医学の解剖図には存在しない「三焦(さんしょう)」という器官です。古来、三焦は「名ありて形なし」と称され、上焦(胸部・呼吸循環)、中焦(上腹部・消化吸収)、下焦(下腹部・排泄生殖)の3つのエリアにおける体液代謝と熱エネルギーの分配を統括する機能概念とされてきました。現代医学に照らし合わせれば、リンパ系や自律神経系、内分泌系のネットワークに近い働きです。
飲食によって摂取した水分や熱が体幹から手足の末梢へ波及していく感覚は、まさにこの「三焦」を通じて全身の津液(体液)が循環するプロセスそのものです。先人たちが単なる「胃袋に入った」という表現にとどめず、架空の機能概念を含む「五臓六腑」を持ち出した背景には、自律神経や体液循環を総動員したダイナミックな生体反応への深い洞察がありました。