耳にした瞬間、無意識に涙腺が緩むメロディ。その感動を生み出している正体は、メロディ単体ではなく背景で鳴り響く和音の移り変わり(コード進行)にあります。音楽理論において、コードは「安心感を与える響き(トニック)」「物語の展開を予感させる響き(サブドミナント)」「強い緊張をもたらし着地点を求める響き(ドミナント)」という3つの役割に分かれます。
人間の聴覚心理は、不安定な響きにさらされた後に心地よい安定へ戻る瞬間に、強い快感物質であるドーパミンを分泌することが近年の認知心理学や脳科学の実験でも明らかになっています。J-POPの歴史を築いてきた名曲群は、この心理的カタルシスを絶妙なタイミングで刺激する進行を綿密に配置しています。胸が締め付けられるような切なさを誘う通称「エモい」コード進行の多くは、解決しそうで完全には解決しきらない浮遊感や、長調(メジャー)のなかに突如忍び寄る短調(マイナー)の哀愁を意図的に織り込むことで、聴き手の情動を巧みにコントロールしているのです。