インターネット上の掲示板やSNS、知恵袋の投稿を丹念に追うと、春先の残業調整を巡る労働者たちの生々しい葛藤と摩擦が浮かび上がってきます。
大手掲示板の5ちゃんねるやX(旧Twitter)では、毎年3月末から4月にかけて以下のような投稿が急増します。
「4〜6月は絶対に定時退社するマンになる。秋から毎月手取りが2万減るとか耐えられない」
「先輩が露骨に4月だけ残業を断って仕事を押し付けてくる。チームの空気が最悪」
「去年4月に頑張って残業代を稼いだら、10月から手取りが減りすぎて生活費がショートしかけた」
現場取材でも、中間管理職の苦悩は深刻です。都内のIT企業で開発マネージャーを務める40代男性は、当時の現場の様子を次のように証言しています。
「4月に入った途端、若手エンジニアから『社会保険料が上がるので残業したくありません』と直談判されたことがあります。制度の知識を持っていること自体は素晴らしいですが、顧客のリリース納期が迫る中で特定の人だけが仕事を放り出すと、残ったメンバーにしわ寄せが行き、職場の心理的安全性は一瞬で崩壊します」
ここには、行動経済学でいう「現在バイアス(将来の年金給付という遠い利益よりも、今月末の手取り現金という目先の利益を極端に重視する心理)」が色濃く現れています。目先の可処分所得を守りたい個人と、チームの業務遂行や長期的なキャリア形成を求める組織の間で、春先の「残業セーブ」は静かな人間関係の軋轢を生み出す火種となっているのが実態です。