医療・介護の現場で記銘力の状態を測る代表的な指標が、「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」です。
このスクリーニング検査において、記銘力の有無を如実に暴くのが「3つの言葉の記銘と遅延再生」です。検査者は被験者に対し、「桜・猫・電車」といった相互に関連性のない3つの単語を提示し、復唱させます(即時記銘:各1点、計3点)。その後、計算問題や数字の逆唱などの別のタスクを挟んで数分経過させた後、「先ほど覚えてもらった3つの言葉は何でしたか?」と質問します(遅延再生:各2点、計6点)。
記銘力障害を抱えている場合、直後の復唱は難なくクリアできても、別の課題に注意が向いた瞬間に脳内から痕跡が消失し、遅延再生で0点になります。さらにヒント(「1つは植物でしたね」)を出しても正答できない場合、記銘そのものが失敗していた証左となります。
また、病棟や介護施設における看護観察項目では、以下の具体的な行動パターンが重要なスクリーニング指標として監視されます。
- 反復質問:「今日は何日ですか?」「先生はいつ来ますか?」と、数分おきに寸分違わぬ質問を繰り返す。
- 直前の行為の忘失:食事を完食した直後に「ご飯はまだ出ないのですか?」と配膳を要求する。
- 服薬管理の破綻:薬を飲んだ直後に「まだ飲んでいない」と追加服用しようとする、あるいは紛失する。
- 作話と取り繕い:辻褄を合わせるために、事実と異なるストーリーを無意識に創作して語る。
現場の看護師は、患者の「言葉」ではなく「直前の行動との乖離」を注視することで、初期の記銘力低下を察知しています。