日本のテレビ広告史における伝説として語り継がれているのが、初回放映で発生した「無音の放送事故」です。
正午の時報に合わせて画面が切り替わった瞬間、流れるはずの澄んだ鐘の音やナレーションが一切聞こえず、無音のまま映像だけが流れ続けました。これには生放送現場の技術スタッフも凍りついたといいます。
この前代未聞のトラブルを引き起こした直接の理由は、「16mmフィルムの裏返し装填」という人為的なオペレーションミスでした。
当時のフィルムは、映像の横に光学式の音声トラック(サウンドトラック)が焼き付けられている構造でした。フィルムを映写機に表裏逆にセットしてしまったため、プロジェクターの光学ヘッドが音声トラックを読み取れず、30秒間完全に音が出ない状態に陥ってしまったのです。さらに、映像自体も左右反転し、光量が落ちて薄暗く映し出されるという二重の悲劇でした。
局内は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなりましたが、当時はテレビというメディア自体が生まれたて。視聴していた一般市民の多くは「こういう演出なのだろうか」「テレビとはこういうものなのか」と受け止め、大きなクレームに発展することはなかったという、黎明期ならではの微笑ましい逸話も残されています。