「黒毛和牛上塩タン焼735円」が社会的なインパクトを残した最大の要因は、読売テレビ・日本テレビ系列で月曜19時というファミリー向けゴールデンタイムに放送されていたアニメ『ブラック・ジャック』の初代エンディングテーマ(2004年10月〜2005年3月放映)に起用された点にあります。
手塚治虫の名作医療漫画を原作とするアニメであり、ピノコやブラック・ジャックの切ないアニメーションが流れる背後で、色気漂う本曲が流れる光景はお茶の間に強烈な違和感と衝撃を与えました。当時、親世代からは「月曜の夜、家族で団らんしている時間帯に流すには艶めかしすぎるのではないか」という戸惑いの声が上がったことも事実です。
しかし、制作サイドがこの楽曲を選定した理由は極めて本質的なものでした。監督の手塚眞をはじめとする制作陣は、無機質なヒューマンドラマに終始するのではなく、手塚治虫作品の根底にある「生身の人間の肉体」「生きることへの生々しい欲望と体温」を表現できるエモーショナルな楽曲を求めていました。命の手術を施す外科医の物語の末尾に、肉と体温を強烈に想起させるこの曲を置くことで、生きていることの生々しい躍動を視聴者の五感に訴えかける狙いがあったのです。