私たちの財布の中に必ず収まっている10円青銅貨と、最高額紙幣である一万円札の裏面。日本の通貨史において、これほど同一の寺院建築に由来する意匠が重宝されてきた例は他にない。1953年に10円玉のデザインとして鳳凰堂が採用された背景には、戦後復興の途上にあった日本が、世界に誇るべき文化国家としてのアイデンティティを再確認しようとした強い意志があった。
水面に浮かぶ宮殿のようなその優美なシルエットは、左右対称の極致でありながら、どこか軽やかで飛び立つ鳥のような躍動感を秘めている。屋根の頂で静かに宇治の街を見下ろす一対の鳳凰は、悪世が去り善政が行われるときにのみ姿を現す瑞鳥だ。貨幣という最も日常的な道具にこの造形が刻印されたことは、平和と繁栄への祈りを日々の生活に定着させるための無言のメッセージだったと言える。