王道家の歴史を語る上で避けて通れないのが、2011年に起きた吉村家直系からの離脱、いわゆる「破門騒動」です。ネット上では「大喧嘩の末の追放」といったセンセーショナルな噂が独り歩きしがちですが、その真相は職人としての信念と合理的な経営判断にありました。
最大の分岐点となったのは、麺の自家製麺化です。吉村家直系店舗は、総本山が指定する「酒井製麺」の特注麺を使用することが絶対条件とされていました。しかし清水氏は、さらなるスープとの相性、小麦の香り、そしてコストと品質の極限を追求するため、1,000万円を超える莫大な設備投資を行い、自社製麺工場の立ち上げを決断します。
酒井製麺以外の麺を使用することは、直系の掟に反する行為でした。公式発表や各種インタビューにおいて清水氏は、「吉村会長への感謝は一生消えないが、職人として自分が信じる最高の一杯を追求するためには、この道を選ぶしかなかった」と語っています。
直系を外れた後も、清水氏は吉村家が築き上げた「本物の豚骨醤油」の製法を愚直に守り続けています。資本系チェーンによる簡易スープ(いわゆる工場スープ)が街に溢れる中、毎日大量の生ガラを店内で炊き上げる「直系の魂」を誰よりも強く継承しているのは、皮肉にも直系を離脱した王道家であるという点は、業界関係者の間でも広く認められている事実です。