当時の記録を紐解くと、徳政令の発布によって列島各地の現場が激しいパニックに陥った生々しい様子が浮かび上がります。『鎌倉年代記』や当時の寺社文書、訴訟記録には、幕府の思惑から完全に逸脱した社会の混乱が記録されています。
土地を取り戻そうとする御家人と、「正当な対価を払って買った」と主張する非御家人や商人の間で激しい暴力抗争が多発しました。幕府が「金銭の裁判は受け付けない」と匙を投げたため、当事者同士の力ずくの奪い合い、すなわち「自力救済」が横行したのです。
さらに狡猾な御家人の中には、他人に売却した土地を徳政令で強引に取り戻した後、別の商人に二重に売りつけるような不正を行う者まで現れました。仏教説話集『沙石集』など当時の文筆家たちも、約束を平然と破り徳政令を悪用する武士たちのモラルハザード(道徳的退廃)を厳しく批判しています。善意の経済是正措置は、瞬く間に社会秩序と法の正義を解体する毒薬へと変貌しました。