「モンスターを何本飲むと人は死に至るのか」という問いに対し、薬理学的な数値計算から導き出される答えと、生体が実際に耐えられる臨床現場の限界値には大きな隔たりが存在します。ネット掲示板などで散見される「60本以上飲まないと死なないから大丈夫」という言説は、極めて軽率で命を脅かす誤謬です。
日本中毒情報センターや各国の食品安全機関の公表データによると、ヒトにおける経口カフェインの推定致死量は約5g〜10g(5,000mg〜10,000mg)とされています。体重換算ではおよそ150mg〜200mg/kgが致死レベルの基準値です。これを日本の標準的なモンスターエナジー(355ml缶・カフェイン含有量142mg)に単純換算すると、以下の計算になります。
体重60kgの成人男性の場合、致死量の中央値を約7.5g(7,500mg)と仮定すれば、純粋な計算上は「約53本」を一気に体内に流し込まなければ理論上の致死量には達しません。これだけの水分量(約18リットル)を短時間で胃袋に収めること自体が物理的に不可能なため、「モンスターで死ぬことは構造上あり得ない」と錯覚してしまう人が後を絶たないのです。
しかし、救急医療の現場が警告を鳴らす現実は全く異なります。カフェインは致死量に到達する前に、1g〜2g(1,000mg〜2,000mg)の摂取で重篤な「急性カフェイン中毒」を発症します。これはモンスターエナジーに換算するとわずか7本〜14本程度に過ぎません。
さらに、数時間という短いスパンで立て続けに飲用した場合や、脱水状態、極度の寝不足、もともと不整脈の素因を持っていた場合、わずか3本〜4本(カフェイン400〜600mg前後)の短時間摂取であっても血中濃度が急上昇し、激しい動悸、血圧急変、心室細動などの致死的不整脈を誘発して心停止に至る危険性が医学的に証明されています。「致死量」という極限の数字だけを見て安全性を語ることは、自ら命を危険に晒す行為に他なりません。