なぜJR各社は、長年維持してきた設備を一斉に廃止する決断を下したのでしょうか。公式発表資料および業界関係者への取材から浮き彫りになる新幹線喫煙ルーム廃止理由には、大きく分けて3つの要因が存在します。
第一の要因は、社会的な禁煙志向の高まりと受動喫煙防止意識の定着です。厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、成人喫煙率は年々低下傾向を辿っており、鉄道利用者全体における非喫煙者の割合は圧倒的多数を占めるに至りました。喫煙ルームの扉が開閉する際、デッキや客室へと微小粒子物質(PM2.5)やタバコ臭が漏れ出すことに対する一般乗客からの改善要望は年々増加しており、鉄道会社としても受動喫煙防止対策の徹底が急務となっていました。
第二の要因は、車内設備の老朽化に伴うメンテナンスコストと清掃負荷の削減です。喫煙ルームは強力な排気ファンや特殊フィルターを常時稼働させる必要があり、灰皿の清掃やヤニ汚れの除去作業に多大な人件費と整備時間が費やされていました。
そして第三の極めて実践的な理由が、自然災害への備えと危機管理機能の強化です。JR東海およびJR西日本は、廃止された喫煙ルームのスペースを改修し、JR東海喫煙ルーム非常用飲料水をはじめとする緊急用備蓄物資の保管スペースへと順次改装しました。近年激甚化する地震や風水害、線路内立ち入りなどによる長時間の立ち往生が発生した際、乗客に配布するための飲料水や非常食、携帯トイレなどを配備する空間へと生まれ変わっています。愛煙家向けのサービス空間が、全乗客の生命線を守る防災拠点へと機能転換を遂げた格好です。