事件後、日本のインターネット空間、特に2ちゃんねる(現5ちゃんねる)の格闘技板やスポーツ関連掲示板における熱量は凄まじいものがありました。秋山の名前をもじった「ヌル山」という蔑称が瞬く間に考案され、掲示板からまとめブログ、一般のSNSへと爆発的に拡散。秋山ヌルヌルネットの反応は単なるスポーツの判定批判の枠を遥かに超え、社会的なモラル・パニックの様相を呈しました。
なぜここまで過剰なまでに炎上が拡大したのか。その背景には、秋山が過去の競技生活で幾度となく指摘されてきた「疑惑の歴史」が存在していました。
秋山は柔道韓国代表から日本へ帰化し、2002年釜山アジア大会で金メダルを獲得したエリート柔道家です。しかし、2003年の世界柔道選手権大阪大会男子81kg級において、対戦相手であったフランス代表のダミアン・サンチェス選手や、2回戦で対戦したモンゴルのダムディンスレン選手らから「秋山の柔道着が異常に滑って掴めない」と試合中に相次いで異議申し立てが行われていました。さらに同年の日本代表選考会でも、対戦相手の中村兼三選手が試合後に同様の違和感を口にしていました。
当時、国際柔道連盟(IJF)の検査では洗剤のすすぎ残しなどが示唆され、故意の不正とは断定されなかったものの、格闘技ファンの記憶には「秋山=滑る」という不信感が根強く焼き付いていたのです。そこへ来て起きた大晦日の事件、そして後に浮上した秋山成勲ワセリン問題(過去の試合でもグローブや体にワセリンを意図的に付着させていたのではないかという疑惑)の検証動画がネット上に溢れ返り、「またやったのか」「常習的だったのではないか」という怒りの連鎖を引き起こしました。これが、ヌル山事件の真相を語る上で欠かせない心理的背景です。