家庭犬が遠吠えを繰り出す最大のルーツは、共通の祖先であるハイイロオオカミ(Canis lupus)の群れ(パック)社会に存在します。野生環境において、広大なテリトリーに散らばった仲間同士が互いの位置を確認し合い、狩りの合図を交わし、縄張りに侵入しようとする外敵を牽制するための超長距離音響通信こそが遠吠えの原点です。
人間による数千年にわたる家畜化の過程で、犬は「人間に要求を伝えるための短い吠え声(ワンワン)」を発達させました。それでもなお、犬の遠吠え オオカミの本能は完全に消え去ったわけではありません。喉を大きく広げ、胸腔を共鳴させて放たれる低周波の長い発声は、風に乗れば数キロメートル先まで減衰せずに届く物理的特性を備えています。
特にシベリアン・ハスキーやアラスカン・マラミュート、サモエドといったスピッツ系北方犬種や、柴犬をはじめとする日本犬グループは、遺伝子解析の研究においてもオオカミに近い系統樹に位置づけられています。これらの犬種が日常的に遠吠えを行いやすいのは、何世代にもわたって希釈されなかった原初的なコミュニケーション回路が、ふとした刺激で賦活化するためです。