1970年代から1980年代にかけて、井上和彦は正統派美男子声優としての地位を確立していました。『キャンディ・キャンディ』のアンソニー役で多くの女性ファンを虜にし、1979年の『サイボーグ009』島村ジョー役でその人気は決定的なものとなります。透き通るようなリリカルな響きは、昭和のアニメブームを牽引する象徴でした。
しかし、そこで安住しないのが井上和彦のキャリアの凄みです。『機動戦士Ζガンダム』で演じたジェリド・メサは、主人公カミーユ・ビダンと激しい確執を繰り広げるエリート士官。挫折を繰り返し、仲間や恋人を失いながら執念深く立ちふさがる泥臭いライバル像を熱演しました。
「カミーユ、貴様は俺の…!」と叫び散っていく散り際まで、人間のエゴとプライドを剥き出しにした演技は、二枚目声優の枠を大きく打ち破り、役者としての厚みを決定づけました。