物語序盤から「金塊を奪い、仲間であるアイヌを皆殺しにした大悪党」として語り継がれていたのっぺらぼう。その仮面の下に隠されていた正体こそ、主人公アシリパの最愛の父、ウイルクでした。ポーランド人の父と樺太アイヌの母を持つ彼は、凍てつく冬の空のような透き通った青い瞳を持ち、アイヌ名で「ホロケウオシコニ(狼に追いつく者)」を意味するウイルクの名で生きてきた男です。
彼がなぜ顔の皮膚を失い、異形の怪異「のっぺらぼう」と化してしまったのか。その発端は、金塊を巡る激突の果てに網走監獄へと収監される過程にあります。ウイルクは自らがアイヌ殺害の首謀者として捕縛された際、厳重な警備を誇る網走監獄の典獄・犬童四郎助の手によって外部との接触を完全に断たれました。鶴見中尉をはじめとする外部勢力に自らの正体を悟られないよう、自ら、あるいは捕縛時の激しい抵抗や拷問の中で目・鼻・耳を削ぎ落とされた姿は、まさに生ける屍そのものでした。
アイヌ殺害の容疑については、後に対立する仲間たちを排除するための冷徹な手段であったことが示唆されますが、そこには「アイヌ民族の独立と自活」という巨大な理想のためなら手段を選ばない、冷酷な革命家としてのウイルクの横顔が刻み込まれています。