「振り逃げ」という日本語の名称は、極めてキャッチーである反面、ルール解釈における致命的な認知バイアスを生み出してきました。「振って、逃げる」という言葉の響きから、多くのファンや少年野球の選手までもが「バットを振った三振のときだけの特別ルール」と信じ込んでいます。しかし、これは明確な誤解です。
公認野球規則5.05(a)(2)には、打者が走者となる条件として次のように記されています。
「走者が一塁にいないとき、または走者が一塁にいても二死のとき、捕手が第3ストライクと宣告された投球を捕球しなかった場合」
条文のどこにも「打者がスイングした場合」という限定句は存在しません。判定が「空振り三振」であろうが、手を出さずに見送った「見逃し三振」であろうが、球審が第3ストライク(ストライクゾーンを通過した投球)をコールし、かつ捕手がその投球をノーバウンドで捕球できなかった(振り逃げキャッチャー捕球失敗、あるいはワンバウンドした投球を捕球した)瞬間、打者走者としての権利が自動的に発生します。
投手が鋭い変化球で見逃し三振を奪ったものの、投球がワンバウンドのショートバウンドとなってミットを弾き、ボールがバックネット方向へ転々とした場面を想像してください。このとき打者が「見逃し三振だから自分はアウトだ」と思い込んでバッターボックスに立ち尽くしていれば、捕手は落ち着いてボールを拾い、打者にタッチしてアウトが確定します。しかし、打者が瞬時に状況を察知して一塁へスタートを切れば、合法的な振り逃げ見逃し三振となり、一塁セーフをもぎ取ることが可能です。名称の先入観に惑わされずルールの本質を突いたチームだけが、こうした一瞬の隙をスコアへと変えることができます。