喜劇俳優としての地位を確立していた彼に、最大の転機が訪れる。それが『必殺仕事人』シリーズをはじめとする必殺シリーズの主人公、中村主水の誕生だった。奉行所では上司にへつらい、家庭では婿養子として姑や妻に頭が上がらない「昼行灯」。しかし夜の帳が下りれば、冷酷無比な太刀筋で悪を討つ裏稼業の元締へと豹変する。この極端な二面性を持つキャラクターは、それまでのヒーロー像を根底から覆した。
制作当初、藤田本人は自らが演じる主水という男の情けなさに戸惑いを隠せなかったという。正義の味方ではなく、金で殺しを請け負うダークヒーロー。だが、日常の惨めさをリアルに演じれば演じるほど、闇の中で刃を抜く瞬間の凄みが引き立つ。この緻密な計算と葛藤の末に、時代劇の歴史を塗り替える孤高のアンチヒーローが産声を上げた。