夜間や休日のように直ちに歯科医師の手技を受けられない空白の時間帯を乗り切るためには、物理的な環境制御と局所作用薬の併用が唯一の現実的対抗策となります。内服薬だけに頼るのではなく、局所の圧力を下げ、局所神経の末梢を遮断する多重アプローチが必要です。
物理的な応急処置として最も即効性があるのは、「冷却」と「頭の位置を高く保つこと」です。氷嚢や冷えピタ、水で濡らしたタオルなどを頬の外側から当て、炎症を起こしている局所の毛細血管を収縮させます。ただし、氷を直接歯に当てるのは神経への強烈な寒冷刺激となり激痛を誘発するため厳禁です。また、横になると頭部への血流が増加して歯髄腔の内圧が上昇するため、就寝時は枕やクッションを重ねて上体を少し起こした姿勢を取ることで、拍動性の痛みを劇的に和らげることができます。
そして、外用薬の切り札として明治時代から100年以上の歴史を誇る名薬が丹平製薬の「新今治水(しんこんじすい)」です。本剤は内服薬ではなく、穴のあいた虫歯の局所に直接塗布する液体薬です。主成分である「チョウジ油(オイゲノール)」は歯科医院の根管治療でも消毒・鎮痛剤として日常的に使われている天然生薬成分であり、痛覚神経を鎮静化させます。さらに局所麻酔薬の「塩酸ジブカイン」と殺菌作用を持つ「フェノール」が複合的に配合されており、塗布後わずか1〜2分で痛覚を麻痺させます。
新今治水はその強力な局所麻酔効果ゆえに、正しい使用手順を守らなければ口腔粘膜を傷める原因になります。使用時は付属のピンセットを用い、微小な脱脂綿の小球(綿球)を作って薬液を少量染み込ませます。液だれしない程度に軽く絞った後、虫歯の穴の中に直接ピンポイントで押し込むのが鉄則です。誤って周囲の歯ぐきや唇の内側に薬液が付着すると、粘膜が白くただれたり強い刺激感を生じたりするため、患部以外に触れさせない細心の配慮が求められます。