他府県からの観光客がつい口にしがちな「大文字焼き」という呼び名。実は、京都の地元住民や保存会関係者に対してこの表現を使うのは避けるべきマナーとされています。
その決定的な理由は、五山の送り火が単なる夏の観光イベントや「火祭り・野焼き」ではなく、お盆に迎えた先祖の御霊をお送りする厳粛な仏教行事(盂蘭盆会の精霊送り)だからです。神奈川県の強羅温泉などで開催される「箱根強羅夏まつり大文字焼」のように、観光・余興を目的として公式に「〜焼き」と銘打たれている催事とは根本的な成り立ちが異なります。
五山の送り火の由来や起源には諸説あり、平安初期に弘法大師空海が始めたという伝説や、室町中期の足利義政が早世した我が子の菩提を弔うために始めたという説などさまざまです。明確な記録としては江戸時代初期の文献『案内者』や『洛陽名所集』に見られ、町衆の信仰と結びついた追悼の祈りとして数百年以上受け継がれてきました。地元の人々にとって神聖な精霊送りの火を「〜焼き」と呼ぶことは、お墓参りや法要をレジャー扱いされるような違和感を与えてしまうのです。