米国の優れたコミックに贈られる「アイズナー賞」を何度も受賞している事実は、世界の漫画業界における彼の立ち位置を雄弁に物語っている。かつてマニアックなサブカルチャーとして扱われがちだったホラー漫画を、世界的評価を受ける純粋芸術の領域にまで昇華させた功績は計り知れない。翻訳版が北米や欧州でベストセラーを記録するたび、海外メディアは彼の創造力を絶賛してきた。
長年にわたり作品を刊行し続けている朝日新聞出版の編集担当者は、彼の創作態度についてこう語る。「緻密な作画に対する妥協のなさはもちろんですが、何よりも日常の日常たる所以を微細に観察する視線が凄まじい。平凡な風景がほんの一歩で悪夢へと変貌する快感こそ、伊藤潤二作品の真骨頂です」。長年の信頼関係に基づいた出版活動が、世界的な巨匠としての基盤を強固なものにしてきたのだ。