一念三千の原型を構築したのは、中国・南北朝から隋の時代に活躍した天台大師智顗(ちぎ)です。智顗はその主著『摩訶止観』において、法華経の神髄を結晶化させ、高度な瞑想修行(止観)を通じて自心の中に三千世界を観察するシステムを確立しました。
しかし、天台大師が説いた一念三千は極めて観念的・瞑想的な性格が強く、厳しい修行を積んだエリート僧侶でなければ体得が難しい「理の一念三千(理論上の一念三千)」にとどまっていました。
この深遠な理論を、厳しい現実社会を生きるあらゆる民衆の実践法へと昇華させたのが、鎌倉時代の日蓮です。日蓮は代表的な御書である『観心本尊抄』において、法華経の肝心である南無妙法蓮華経の曼荼羅本尊を信じ、唱題(題目を唱えること)によって誰もが即座に自らの仏界を湧現できる道を示しました。これを「事の一念三千(具体的な実践・現実の上での一念三千)」と呼びます。