この重層的な伝説を全世界の共通言語へと昇華させたのが、ウォルト・ディズニー・カンパニーである。同社が生み出した不朽の名作アニメーション『アラジン (1992年の映画)』では、特定の現実国家に縛られない架空の都市「アグラバー」が創造された。
アグラバーのビジュアルは、単一の国を再現したものではない。ヨルダン川のほとりに位置すると設定されつつも、スルタンの壮大な宮殿はインドのアグラにあるタージ・マハルを明確なモチーフとしている。市場の街並みはイランのイスファハンやモロッコのメディナを彷彿とさせ、乾いた風土はアラビア半島そのものだ。
多国籍な意匠を一つにまとめ上げたこのファンタジー映画は、比類なきミュージカル映画としての完成度も相まって、世界中の観客に「これぞアラジンの世界」という絶対的な視覚体験を刻み込んだ。