暖簾をくぐる来訪者の多くが注文するのが、看板料理である「宝来そば」です。朱塗りの小さな割子(わりご)が5段に重ねられ、彩り豊かな薬味が別皿で供される姿は圧巻の風情を醸し出します。
この名には深い歴史的背景があります。かつて金箔職人が散らばった金粉を集める際、蕎麦粉を練った団子を使って吸着させた故事から、「蕎麦は宝(金)を集める縁起物」と尊ばれてきました。そこから名付けられた宝来そばは、ハレの日の食事としても重宝されています。
宝来そばを心ゆくまで堪能するための基本的な手順は以下の通りです。
【宝来そばの粋な味わい方】
1段目:まずは薬味を載せず、漆の器に直接つゆを少量回しかけ、蕎麦本来の香りと喉越し、出汁の旨味をストレートに味わいます。
2段目〜4段目:8種の薬味(錦糸卵、甘煮椎茸、もみ海苔、刻みねぎ、大根おろし、わさび、白ごま、えび天など)を好みの組み合わせで散らし、味の変化を楽しみます。
5段目:残ったお好みの薬味を贅沢に盛り込み、全体のハーモニーを締めくくります。
食後:器に残ったつゆに白濁した熱々の蕎麦湯を注ぎ、豊かな出汁の余韻を最後の一滴まで飲み干します。
宝来そば以外にも見逃せない逸品が揃っています。じっくり炊き上げた身欠きにしんの甘辛さと澄んだ出汁が調和する「にしんそば」や、上質な鴨肉のコクが溶け出す「鴨せいろ」は地元常連客から絶大な支持を集めています。さらに、食後やお土産として名高い「蕎麦餅」は、上用粉と蕎麦粉の香ばしい皮の中に上質なこし餡が詰まった銘菓で、尾張屋が菓子司発祥であることを実感させる完成度です。