多くの参拝客が訪れて初めて突き当たる最大のカルチャーショックが、「授与所でお守りやお札が売られていない」という事実です。一般的な神社であれば、社務所の窓口に色鮮やかなお守りや破魔矢、木札がずらりと並んでいますが、千代保稲荷神社にはそうした授与所が存在しません。
ネットの口コミサイトやQ&A掲示板では「社務所が閉まっていた」「お守りを買い忘れた」といった書き込みが散見されますが、これは休止中なのではなく、そもそも神社の方針としてお守りやお札の頒布を行っていないのが実態です。この背景には、千代保稲荷神社の歴史的成り立ちが深く関わっています。
前述のとおり、当神社は源氏の血を引く森家の祖先を祀る私的な祖霊信仰を起源としています。「神社とは本来、自らの感謝の誠を捧げる場であり、神仏の御霊を分け売りして利益を得るべきではない」という極めて純粋な宗教的倫理観を先祖代々守り続けているためです。参拝者は形あるモノ(お札やお守り)を持ち帰るのではなく、境内で神仏と向き合い、自らの志を清めるという「精神的な決意」そのものを持ち帰ることが求められます。
これに伴い、参拝者が抱く疑問が「他社で受けた古いお守りや破魔矢を返納できるのか」という点です。境内には「古札納所」が設けられており、古い神札やお守りを納めること自体は可能です。ただし、人形や仏像、日用品などの投棄が問題視されているため、神仏に関する品以外の持ち込みは厳格に禁じられています。他社のお守りを納める際は、感謝の祈りを捧げた上でお賽銭を添えて納めるのが正しい礼儀作法です。
また、営業時間に関する誤解も根強く残っています。本殿への参拝は24時間365日可能であり、境内はいつでも開放されています。しかし、参道の門前町商店街は別物です。通常の平日は夕方17時頃になると大半の店舗がシャッターを下ろしてしまいます。「夜景を見ながら食べ歩きができる」と思い込んで平日の夜遅くに訪れると、静まり返った参道に拍子抜けすることになります。食べ歩きと参拝の両方を満喫したい場合は、昼間に訪れるか、全店が夜通し営業する月末の月越祭を狙う必要があります。