日本格闘技界を揺るがした野杁正明のK-1離脱と移籍理由については、当時からさまざまな臆測が飛び交いました。一部では契約問題や報酬面での摩擦が囁かれたこともありましたが、関係者の証言や本人が公式インタビューで語った言葉を丹念に紐解くと、そこには極めて論理的かつ情熱的な真相が浮かび上がってきます。
最大の要因は、K-1国内トーナメントや階級別王座を完全制覇したことによる「挑むべき目標の喪失」でした。当時の特番インタビューにおいて、野杁は「K-1でやり残したことはもう何一つない。自分が本当に世界で一番強いのかを確かめないまま現役を終えることだけは、どうしても受け入れられなかった」と胸中を吐露しています。20代後半から30代前半という格闘家としての円熟期を迎えるにあたり、残されたキャリアの時間を逆算した結果、世界の超一流が集うONEへの挑戦こそが唯一のモチベーションとなったのです。
さらに、武尊をはじめとするトップファイターたちが相次いで世界規模の興行へ打って出た時代背景も、彼の背中を強く押しました。国内のぬるま湯に浸かることを自らに禁じ、最も過酷な場所へ自らを追い込む選択をした背景には、武道家としてのストイックな矜持が色濃く反映されています。