魚の脂と肉の脂は、融点がまったく異なる。魚の脂は口の中でスッと溶けるが、牛の脂、特に最高峰とされるA5ランクの和牛の脂は、融点が高いため冷たいシャリと合わせると口の中に不快な固形感が残ってしまう。長年、これが肉を使った寿司の最大の弱点とされてきた。
この壁を打ち破ったのが、熟成技術と赤酢の進化だ。現代のトップシェフたちは、肉をただスライスして乗せるのではない。数週間におよぶドライエイジングによってアミノ酸を極限まで引き出し、さらにシャリの温度を一般的な寿司よりもわずかに高く設定する。そこに、酸味の強い長期熟成の赤酢を合わせることで、和牛の濃厚な脂をすっきりと昇華させることに成功したのだ。一口食べた瞬間に広がるのは、重たさではなく、圧倒的な旨味の余韻である。