プールや海水浴で鼻に水が入った際、頭の奥まで突き抜けるような「ツーン」とした激痛を経験した人は多いはずです。鼻うがいがツーンと痛い理由は、鼻腔粘膜にある感覚神経が、体液と異なる低張液に触れて激しく刺激されることにあります。細胞内外の塩分濃度差によって、水分が粘膜細胞内へ一気に流れ込んで細胞が膨張し、痛覚受容体である三叉神経終末を直接刺激する物理的現象が痛みの正体です。体液と同じ0.9%濃度の生理食塩水を用いれば、この浸透圧差がゼロになるため、神経線維は刺激されず痛みは全く生じません。
ここで多くの人が軽視しがちなのが、水道水鼻うがいの危険性と真相です。日常的に飲用している日本の水道水であっても、鼻腔粘膜にそのまま通す行為は医学的に推奨されていません。日本の浄水基準は世界最高水準ですが、残留塩素が含まれており、これがデリケートな鼻粘膜の線毛運動(異物を外に押し出す自浄作用)を弱めてしまう恐れがあります。
さらに深刻なのは、まれに水道管や貯水槽内に潜伏する微生物のリスクです。海外では、未滅菌の水道水で日常的に鼻洗浄を行った結果、致死率が極めて高い病原性アメーバ「フォーラーネグレリア」が嗅神経を経由して脳に侵入し、原発性アメーバ性髄膜脳炎を発症した死亡事例が報告されています。日本国内での発生確率は極めて低いものの、耳鼻咽喉科専門医が「鼻うがいには一度十分に沸騰させて塩素を飛ばし、37℃前後まで冷ました湯、または局方精製水を使用すること」を鉄則として指導している背景には、こうした粘膜感染防御の観点があります。