混同のもう一方の当事者であるコブクロの『桜』は、彼らのキャリアにおいて不可侵の金字塔です。この名曲の誕生の真相とリリース経緯を辿ると、日本の音楽史に残る奇跡的なエピソードが存在します。
結成当初の1998年、大阪の堺東・銀座通り商店街の路上で歌っていた小渕健太郎と黒田俊介。当時、サラリーマンを続けながら路上に出ていた小渕が、黒田の圧倒的な歌声と表現力に魂を揺さぶられ、「この唯一無二の声に見合う、世界で一番切なく力強い曲を作りたい」とわずか数日で書き下ろしたのが『桜』の原型でした。小渕の手記や過去のドキュメンタリー特番での証言によると、当時の黒田はオリジナルの楽曲を持たず、路上で立ち尽くしていた時期でした。そんな彼のために贈られた最初のオリジナル曲こそが、この歌だったのです。
「名もない花には名前を付けましょう」という歌詞には、当時まだ何者でもなかった自分たちの境遇と、華やかな表通りではなく路傍のアスファルトの隙間に根を張る者たちへの限りない慈愛が込められています。冬の寒空の下、誰にも立ち止まってもらえなかった路上ライブで、小渕のアコースティックギターと黒田の切々たる絶唱が響き渡った瞬間、行き交う通行人が次々と足を止め、涙を流したという逸話は今や伝説です。
2000年にインディーズミニアルバムの表題曲として世に出た後、メジャーデビューから5年が経過した2005年11月、満を持してメジャー再録音シングルとしてリリースされました。実に足かけ7年の歳月を経て国民的ヒットへと昇華した経緯は、まさに「冬の厳しさに耐えて春に大輪を咲かせる桜の花」そのものと言えます。コブクロ代表曲『桜』の現在においても、卒業式や春の追憶ソングとして世代を超えて愛され続けている理由は、この不屈の生い立ちが宿す言霊の強さにあります。