2013年4月、花王が満を持して投入した「ヘルシアコーヒー」は、缶コーヒー市場に革命をもたらしました。当時、茶系飲料で築き上げたトクホの絶対的地位を巨大な缶コーヒー市場へ拡張する戦略は、健康診断の数値を気にする中高年層の心を瞬く間に掴みました。しかし、発売から数年を経て徐々に販路が狭まり、静かに姿を消すことになります。背景には複数の構造的な要因が絡み合っていました。
第一の要因は、日常的な嗜好品としての味覚バランスと価格設定のギャップです。コーヒークロロゲン酸を高濃度(2本あたり270mg)で保持する独自の焙煎・抽出技術を採用した結果、従来の缶コーヒーに慣れ親しんだ層から「独特の酸味やえぐみが気になる」という意見が散見されました。さらに、1本あたり税別149円(発売当時)というプレミアムな価格設定は、一般的な120円〜130円の缶コーヒーに比べて毎日飲み続けるためのコスト負担が重く、リピート購入率を押し下げる要因となりました。
第二の決定打となったのが、飲料事業の選択と集中、そして2024年の事業譲渡です。花王は2020年頃から消費者の健康ニーズの変化に合わせ、粉末タイプや主力である緑茶へのリソース集中を進め、缶コーヒー形態の製造を段階的に縮小・終了させていました。さらに2024年2月、花王は「ヘルシア」ブランドの事業をキリンビバレッジへ譲渡することを正式発表し、同年8月に譲渡が完了しました。キリン側は強みを持つ茶系飲料や「免疫ケア」とのシナジーを優先したため、すでに生産終了していたコーヒーカテゴリーの復活は見送られ、ブランドの歴史に事実上の幕が下ろされることになりました。