館内が凍りついた。一瞬の静寂の後、雷鳴のような歓声が天井を突き破る。結びの一番、館内の視線を一身に浴びて土俵に上がった横綱・照ノ富士春雄の立ち合いは重厚だった。しかし、対戦相手の電光石火の立ち合い変化と、それに続く強烈なおっつけが横綱の盤石な上体を揺さぶる。
勝負を決めたのは、土俵際での鮮やかな「突き落とし」。粘る巨体をねじ伏せるように相手が体を入れ替えた瞬間、満員の観客から悲鳴混じりの歓声が上がった。行司の軍配が返り、物言いがつくこともなく決まった波乱の決着。土俵下に転落した横綱の表情には悔しさがにじみ、殊勲の白星を挙げた若手力士は紅潮した顔を必死に引き締めていた。
この一番の決まり手は、単なる番狂わせではない。相手力士が徹底して研究してきた立ち合いの角度と、まわしを与えない徹底した間合い管理が生んだ必然の勝利だった。連日満員御礼が続く大相撲本場所において、歴史に残る番狂わせの目撃者となったファンの興奮は、取組終了後も一向に冷める気配がない。