戦場ヶ原を訪れる者が最初に直面する現実が、過酷な「気温差」だ。単純計算でも、標高が100メートル上がるごとに気温は約0.6度下がる。海抜ゼロメートル地帯と比べれば、湿原の気温は常に8〜9度以上低い。これに奥日光特有の吹きさらしの風が加わると、体感温度は氷点下近くまで一気に叩き落とされる。風速1メートルにつき体感温度が1度下がるセオリーを思い出してほしい。風速8メートルの寒風が吹き抜ければ、春先や秋口の平地感覚など一瞬で吹き飛ぶ。
さらに厄介なのが、スマートフォンの雨雲レーダーの死角である。山岳地帯では、湿った空気が斜面に衝突して局所的な積乱雲や層雲が下から湧き上がる。平野部を基準にした粗い解像度のレーダー予測では「降水確率0%」と表示されていても、頭上にはすでに鉛色の雲が垂れ込めている事態が頻発する。雨雲が画面に映し出された瞬間には、すでに土砂降りに見舞われている——それがこの湿原の日常だ。