初音ミクの髪色が単なる思いつきや偶然の産物ではなく、電子音楽の歴史への深い敬意から生まれた事実は、音楽クリエイターやコアファンの間では広く知られています。その配色の直接的な由来となったのは、1983年にヤマハが発売し、世界中の音楽シーンを席巻した伝説的デジタル・シンセサイザー「YAMAHA DX7」です。
DX7のボディを観察すると、ダークブラウンの堅牢な筐体の上に、鮮やかなミントグリーン調の操作ボタン群やアルゴリズム図が配されていることが分かります。初音ミクの企画・開発を主導したクリプトン社の佐々木渉(wat)氏をはじめとする開発チームは、「歌うソフトウェア」としてのアイデンティティを視覚化するにあたり、デジタルFM音源の金字塔であるDX7のグラフィックパネルの配色をモチーフに採用しました。
イラストレーターのKEI氏に送られた最初のオーダー資料には、DX7をオマージュしたサイバーな意匠と、あの特徴的な青緑色がカラーサンプルとして添付されていました。無機質なハードウェアのアイコンカラーが、生命を宿した少女の象徴的なツインテールへと昇華された瞬間です。音楽産業のイノベーションの記憶を宿しているからこそ、初音ミクのビジュアルは誕生から十数年を経た現在も色褪せることなく、唯一無二の存在感を放ち続けています。